誰かのために④~ライフプランニング講座1年後、高校生の診療同行記録

<文:星野美穂>

「誰かのために①~③」は2018年7月6日、都留高校で行った講演の内容をまとめたものです。

その一年後、今年の7月に、在宅医療Q&Aに参加してくれた2年生2名が、夏休みを利用して、上條医師の診療に二日間同行してくれました。

彼らの在宅医療に対する、率直な意見を紹介します。

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終末期医療を目の当たりにした高校生

1日目のテーマは「多職種連携」。

医療介護の様々な専門職の紹介と、医療介護専用SNSを用いたLiveなやり取りと、思いを共有したチームの実態を見て頂きました。

2日目のテーマは「選択と心構え」。

脳腫瘍終末期の男性の担当者会議に参加して頂きました。死期が迫る本人を囲み、最期の過ごし方についての相談。点滴を終了して穏やかな自然の最後を見届けたいと選択したプロセスに立ち会いました。葬儀の話まで出てきたことに、二人とも目を丸くしていました。

終末期のたくさんの笑顔に驚き

実際の在宅医療の現場を垣間見た二人からは、

「ベッドがある人、土間のある玄関、動物のいる家庭、そういった暮らしがあること。当然だけど、その暮らしが見えることが印象的だった」

「介護や看病する家族は、みな苦労していると思った、楽しみなんて何もないって思っていた。でも、間もなく亡くなる患者さんを前に話合いに参加したら、悲壮感しかないと想像していた終末期に、笑顔がたくさんあることに驚いた。亡くなるかも知れないその日にも、お風呂に入ることが出来るなんて、想像も出来なかった」 との感想を寄せてくれました。

同行を終えて、高校生からの質問

また、同行終了後には、上條医師に思ったことをぶつけてくれました。

その様子を、Q&A風にまとめてみました。

Q:たくさんの看取りに立ち会った医師は、自分の家族の看取りに対しては、違う感情になるのですか?

悲しみは同じだと思う。実際、昨年父を看取ってそう思った。たくさん涙が出たし、辛かった。

でも、そこから立ち直るまでの時間は、もしかしたら普通の人より短いかも知れない。                                     

Q:在宅医療に携わってから、病院の頃の患者さんの死との向き合い方に違いは出てきましたか?

大学の頃は、死は負けだと、本当に思ってしまっていた。一人の患者さんの死を無駄にしたくなくて、本気で死亡原因の徹底的な追求をしたくて、ほぼ100%の看取り患者さんの病理解剖をお願いしていた。確かにそこから学ぶことは多かった。医学の進歩は、そういった積み重ねから来ることも事実。

でも今は、医師としての探求心より、これまで生きてきた人の物語に意識を向けるようになった。ディグニティセラピーという、人生を振り返り、大切な人へメッセージを残す作業をしてもらったりしてる。

                                      

Q:医療訴訟のことが世間でよく話題になるが、在宅医療の世界でもありますか。訴訟リスクを頭において診療しているのですか。

ないわけではない。最終のゴールは死であることが在宅医療の特徴。でも、そこへ向かうプロセスの中にも治るべき病気や、良い時間を享受できるチャンスはある。それを逃してしまってはいけない。

患者さんやご家族が、「もっとこうして欲しかったのに、そのチャンスを奪われた」と思うことは、あって当然だと思っている。

だから、自分が出来ることだけですべてを済ませようとしてはいけない。自分の限界を知って、自分が出来ないことは、ほかの医療機関やスタッフ、または医療とは関係のない人や施設の力を借りるなど、別の人に託すというスタンスは、いつでも必要だと考えてる。                        

                                     

Q:高校時代にしておくべきことは?

去年も言ったけど、やっぱり仲間を大事にすること。

私は、高校の時、理数科に所属していた。理数科は他のクラスより授業が1時限多かったためにクラブ活動に参加できなかった。そのため、同級生や先輩とのつきあい方が分からず、大学へ入ってから苦労した。

大学ではサッカー部に入り、苦労したけど6年間部活を頑張った。その仲間は今でも大事だし、とても良い友達として付き合っている。

一方、高校の時からの友達は、卒業後は一時期疎遠になっていた。年賀状のやり取りはしていたが、いつも「今年こそ飲もう!」と書いていて、実際に会うことはほとんどなかった。

だが、子供が親元を離れて暇になった仲間から最近、誘いが来るようになった。ゴルフや飲み会の誘いがほとんどだが、自分とは異なる分野で活動してきた友人の話は非常に興味深い。特に人を育てることの難しさや仕事の苦労話など、医療とは違う視点の話をたくさん聞くことができて、参考になっている。

この年になってきて、ますます人の絆の大切さをかみしめている。

                                     

Q:在宅医療はいろんな人が関わり結構お金もかかると思います。こういった医療がどんどん普及したとしたら、国の医療費は大丈夫なのでしょうか?

在宅医療は、入院で看取るよりはお金はかからないといわれているが、患者さんが自分の足で医療機関を受診する外来医療よりは桁違いにお金がかかる。政治家の中でも、与党内にも医療亡国論を唱える人もいるようだ。医療費にお金が流れれば経済が後退し、国が滅びるというもの。しかし、医療や介護に従事している人も、お給料をもらって消費して、経済を回している人であることを忘れてはいけないと考えている。

                                     

Q:在宅医療を行う医療機関が増えていると聞いています。医療費がますます増えてしまうのではないでしょうか?

確かに増えている。在宅医療が儲かるからと参入した、大きな在宅医療グループも出来ている。医療機関が莫大な利益をあげていたとしても、職員に還元しないで医師が貯金してお金を貯め込んでいては、経済は回らない。

私は、在宅医療で得た利益は、きちんと職員に還元しているつもりだし、それでも余ったりした分は、多職種人材育成や地域づくり事業に使っている。

桂川てらすや、そこに従事する人、そこでの展開がそれである。

こういった話を、高校生にすることになるとは思わなかった。冷や汗が出ている(苦笑)。

今回同行してくれた高校生2人から手紙をもらいました。
彼らが在宅医療の現場で何を感じたのか、綴られています。

2人の許可を得て、掲載します。