12月2日に開催された棡原地区(ゆずりはら)での出張講座の様子です。
棡原の住人の皆さんに加えて、上野原の在宅医療を支える医師・ケアマネジャー・薬剤師・訪問看護師などの医療・介護スタッフも参加しました。
今回のテーマは、「支え合いのための地域づくり」です。
上條先生は、「この地で在宅医療をスタートしてから7年が経つが、いまだに初めて訪問する患者さんから『在宅医療をやっている医師がいるのを初めて知った』と言われる」と話しました。在宅医療は、「もっと歳を取ったときのこと」と他人事としてとらえているから、役所などに在宅医療の案内などがあっても目に入っていないのかもしれません。
そして、一人の認知症の人が声を上げたことがきっかけに、認知症の人を支える仕組みを住人主体で作り上げた静岡県富士宮市の事例をあげて、「年を取って来たときの地域の課題を我がこととして捉えて欲しい」と語りました。
歳を取ると、足が弱ってきた、物忘れをするようになってきたなど、できないことに目が向きがちです。その一方で裁縫が得意だとか、野菜を上手に育てられるなどできることもたくさんあります。できることに目を向けて、その部分を地域の活動の中で生かすための工夫をしていくことが大切だとも話しました。
会の後半は、4つのグループに分かれて、地域の課題について話し合いました。運転免許を返納した後の足の確保の問題や、一人暮らしのためからだが動かなくなってきたときの不安が大きいことなどがあげられる一方、棡原では昼まで雨戸が閉まっていたら、必ず声をかけてくれる人など、ご近所の人情味の良さも再確認されました。
7年経っても未だに「初めて知った」と言われる在宅医療
今日の会合のテーマは「支え合いのための地域づくり」です。いつまでも棡原で暮らすためになにができるかを話していきたいと思っています。
今日は、上野原医師会の医師やケアマネジャー、調剤薬局の薬剤師、訪問看護師、社会福祉協議会のスタッフなど、上野原の在宅医療を支えるいろいろな職種の人も来てくれています。
実は、色んな職種の人がこうした活動に参加するのは珍しいことなんです。我々はしょっちゅう顔を会せて話し合いをしていますが、こういう地域は全国でもほとんどありません。上野原は医療介護の人が一丸となった仕組み作りが、山梨県のなかでも一番できています。難しい言葉で言うと、「地域包括ケアシステム」といいます。
「地域包括ケアシステム」は、医療・介護スタッフ、民生委員、住民も巻き込んでみんなで暮らしやすい街を作りましょうと言う取り組みです。各地で3-4年前から始まっています。上野原は比較的早いうちに着手して、さまざまな仕組みをいち早く作りました。
でも皆さんのところに、その情報が届いていないという問題があります。
僕は上野原で在宅医療を7年やってきました。それでも、初めての患者さんの家に行くと、「先生みたいな医者がいるのを始めて知った」とよく言われるのです。いろいろな場所で僕が在宅診療をやっているよと案内はしていますが、みなさん我がことと思わない、自分には関係ないと思っていると、見ても覚えていないのです。必要になった時に思い出してくれればいいですが、思い出せずに、結果、在宅医療に気が付かず家に帰れなかったという人も多いのです。
我がこととしてシステム作った富士宮市の事例
年を取ってきてからの問題を我がことと思わない、他人ごと意識であるという問題は、日本全国で起きています。これは、問題の進め方が上手くないのだと思ってます。
あるときすごい地域があることを、テレビを見て知りました。
静岡県富士宮市のやり方がすごいのです。
きっかけは佐野さんという人が50歳で若年性認知症を発症したことでした。50歳といえば、まだ住宅ローンを抱え、子供も学校に行っている年代です。それなのに、認知症が原因で会社を解雇されてしまったのです。
佐野さんは、「自分は物忘れがあるという特徴はあるけれども、まだ仕事ができる。だから自分が仕事をできるところを探して欲しい」と市役所に相談しました。それを聞いた市役所の担当者が、認知症の人が働くことのできる場所を作ろうと動きました。
佐野さんも、近所の人に認知症であることを伝え、協力を仰ぎました。すると、それなら我々も佐野さんを支えようという人が現れ、いつの間にか支援の輪ができたのです。それを見た認知症の人が次々手をあげて、支援の輪が広がり、認知症にやさしい街ができあがりました。
ほかの地域では、役所が認知症サポーター講座などを開催して受講者を募っていますが、受ける人が少ないのが現実です。
一方、富士宮市は、「すぐそばにいる認知症の人を支えたい」という思いが先にあり、サポーターになりたいから講座を開催して欲しいと要望して、多くの人が認知症サポーター講座を受講したのです。
役所だけで、仕組みを作っても我がこととして感じてもらえません。隣の人のためになんとかしよう、そこから街づくりが始まったらいいなぁと強く感じました。
5人に1人は認知症になる
では、富士宮はなぜ認知症にやさしい街になったのでしょうか。
認知症でよくあるのが、父親が一人暮らしで、息子が遠くに住んでいるというようなケース。その父親が最近、近所づきあいがうまくいかなくなってきた。急にかたくなになり、隣の家の境界にバリケードを作ったりしている。医者に見せたら、認知症と診断された。
ところが、息子は「一族の恥だから、認知症のことは口外しない」という。近所の人にもいわないから、周りからの理解が得られず、結局近所から孤立していく。
こういうケースは結構多いです。
今日のような集まりで認知症の話をすると、「うちの地区や親せきにはいない」という人が少なくありません。でも、実は人の目に触れないように隠しているのかもしれません。また認知症の人は、もの忘れや人の顔を忘れてしまったことに対して取り繕ったり、いいわけしたりするのが上手なんです。だから、気が付きにくいのです。
でも、65歳以上の5人に1人は認知症なります。今日は50人くらい集まっていますね。このなかで、僕も含めて亡くなるまでに10人くらいは認知症になるのです。認知症の人は身近にいます。そういう認識を持っていただけたらと思います。
いまできることに注目して
年を取ると、どうしても大変なことばかりに注目してしまいます。歩けなくなってきた、物忘れするようになった、などできなくなったことばかりに意識が向いてしまいがちです。
でも、まだ手が器用だからお裁縫ができるとか、身体は動かないけど畑の知識は豊富だとか、物忘れはあるけど大工の技術は現役並みに達者だとか、いまできることに注目していただきたいと思います。前向きな生き方はそういうことだと思います。
地域づくりって新しいものを持ってこようというだけでなく、地域の伝統文化をどうつないでいくかということもあると思うのです。先日こぶしの獅子舞を見てきましたが、それを続けていくために、若い人にも受け継いでもらうために何をしていくのか。
こぶしでは、新たに中学生3名が加わってくれましたね。大人がこれを見守る。高齢者もこの伝統文化が継承されるのは嬉しいことだと思います。でもそれを見に行くことが出来なくなったとしたらどうでしょう。たとえば、足が弱って参加できない人にも参加してもらうための支援を考えていくことが、地域づくりにもつながると考えます。
先日も、八重山トレイルレースの特別企画、棡原ゆず狩りに参加して来ました。ゆず狩りの後、地元の方と座談会をしたのですが、あの辺の地域の方の共通の悩みとして、免許の問題があると話されていました。免許を返納してしまったら生活できなくなるというのです。トレイルコースの途中、階段上ったところにサロンがあるのですが、坂道を登れない人が増えたら、サロンは消滅してしまいます。
坂道を登れない人にも、どうしたらいつまでも来てもらえるようにするか、今日のような生き生きサロンも、仲間を増やす、仲間を減らさないことを考えていっていただけたらと思っています。
ここからは4-5人のグループに分かれて、地域の課題を話し合いました。話し合いで出された課題を代表者が発表しました。
<グループ1>
A地区には毎月1回石和温泉に行っている仲良しグループがある。メンバーも減らずに頑張っている。だけど参加者それぞれが一人暮らしの人が多いので、将来どうなるという不安を感じていると話していた。
B地区でも、やはりみんなで集まる生き生きサロンが毎月1回開催されていて、花を植えたり草むしりしたりしている。だけど、男性の参加者が一人だけしかいない。男性は家に引きこもっている人が多い。ここらから課題が見えてきた。男性をどう引っ張り出すか。今日も女性が多いが、男性が参加しやすい場の作り方が必要。
将来を不安に思う方がやはり多く、地域の活動ももちろんだが、自分が将来生活する場を見学に行くツアーをやっている。老人ホームとか高齢者住宅とか見学に行っていずれここに入りたいと計画している人がいる。
<グループ2>
101歳の母親がいる息子さんから、元気でいる秘訣として、洗濯ものを取り入れたり畳んだり、自分でできることは続けていくことが良いのではないかとの提言があった。
また、元気でいるための努力として、畑をしていることをあげていた。この地区は畑が全部斜面になっていて容易じゃない。
また、最近問題になっているのが、獣害(猿、鹿、いのしし)。猿などに畑をやられてしまうということ。駆除をしてくれと申請を出しても、駆除の許可が下りるのが提出後1週間もかかる。そのころには、獣は食いつくしてどこかへ行ってしまう。それに、テンやイタチは絶滅危惧種だから採ってはいけないといわれている。それでも実害があるので、困っている。
<グループ3>
やはり足の問題に困っている。グループの人たちは、今は全員運転しているが運転できなくなった時に、バスが1日3本、バス停まで遠い、デマンドタクシーはあるが時間的にデマンドだけでは用を足しきるのは難しいということが問題として出された。
そのなかで小菅から来ている、引き売りの新井の豆腐屋さんが豆腐以外のものも売ってくれるので助かっているという意見も出た。
元気でいるために努力していることは、長寿館を使って、椅子ヨガやコーラス、公民館活動など自主的なグループ活動をしている。あと一人暮らしの人は将来的に困ったときのために近所との付き合いをちゃんとやっていかなければいけないという意見があった。
<グループ4>
良く聞かれるのが足の問題。買い物、病院、リハビリなど車の問題が付きまとう。今運転している人もいるが、将来的に運転できなくなる、今自分でも運転していて怖い時があるという声も聞かれた。どうするか、地域の宅配を使う、新井の豆腐屋さんの引き売りを使うという話があった。あと棡原の地域は人情味にあふれている。隣近所が2、3日姿を見せなかったら様子を見に行く、昼まで雨戸が閉まっていたら声かけてくれるなど、見守りはできているという話が出た。見守り活動、支え合い活動といった仰々しい名前ではなく、日常の中で自然にできている。
上條先生のまとめ
とても人情味のある地域だと感じました。それを大事にして欲しいと思います。
こうした地域でのつながりがあれば、あとは、介護、医療、そのほかのいろいろな仕組みを活用して、本当にいつまでも皆さんの希望どおりの生活が送れる地域になるはずです。
施設を見に行っている人がいるという話も出ましたが、実際良い施設は申し込みが殺到していて入れない可能性も高いです。保険として施設を予約しておくのはいいですが、一方で入れない現状があることも知って、支え合いを続ける工夫をしていただきたいと思います。
害獣の話も出ましたが、それを取り扱うのは、生活環境課の仕事です。こういう場に、その部署の人も参加して欲しいですね。今度連れてきたいと思います。
また、帝京科学大学なども獣害対策として取った獲物の有効活用を考えているそうです。行政に頼るだけではなく、活用している団体ともつながると、お金にもなります。採って売ってお金にするということも考えていくのもいいかもしれませんね。
そのためには、みなさんの協力をいただきたいと思います。