5人に1人が認知症になる時代 認知症の知識で地域を変える

<2018年11月18日下新田ふれあい生き生きサロン 出前講座 文:星野美穂>

厚生労働省の推計によると、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されています。ですが、認知症になったとしても、地域の体制が整っていれば認知症を持っていても住み慣れた場所で暮らしていくことはできます。

今回の出前講座では、認知症にやさしい街といわれる静岡県富士宮市の取り組みを紹介しています。富士宮市は、認知症の当時者が「認知症でも活躍できる場を作って欲しい」と声をあげたことをきっかけに、周囲の人も認知症について学び、それが広がって「認知症にやさしい街」となりました。

上條先生は「自分や周りの人が認知症になるかもしれない。その当事者意識が認知症の知識を学ぶ意欲につながる」と話します。

上野原市内でも、認知症の人への理解を深めるための「認知症サポーター講座」が開かれています。当事者意識を持って、そうした講座に出席することも、認知症にやさしい地域づくりにつながっていきます。

5人に1人が認知症に

今、5人に1人が認知症になると言われています。これって他人事じゃない数字ですよね。認知症も生活習慣が原因となる部分があります。運動が足りなかったり、高血圧症や糖尿病などもともと持っている病気が進行したりすると認知症になりやすいといわれていて、予防できる可能性もあります。今日のように健康サロンで話をしたり、手作業したりするなど、刺激すれば脳はいつまでも元気だと言われます。

それでも、5人に1人は認知症にかかります。

だけど、そうなったら終わりだと思わないでほしいのです。

認知症にやさしい街、富士宮市

認知症の人を取り巻く地域の人々が、認知症を理解し、認知症の人に接するときの心得を持っていたら、認知症の人も地域の中で生活しやすくなります。

国は、認知症の人の特徴を理解して、その人が地域の中でずっと生きていける日本を作りましょうという、「オレンジプラン」を作り、「認知症サポーター」を何百万人も作ろうとしています。

上野原市でも、認知症サポーター講座を開き、認知症サポーターをたくさん作ろうとしています。ただ、まだ関心が薄い。「そういった知識が必要だ」という意識が薄いと、そんな講座に行こうとは思わないですよね。行政側から押し付けてもなかなか広がらないのはそのためだと思っています。

そうしたなかで、静岡県富士宮市の取り組みが注目されています。富士宮市では多くの人が自主的に認知症サポーター講座を受けて、認知症に対する理解が広がりました。
そのため、認知症にやさしい街だといわれています。

「認知症でも活躍したい」当事者の声が発端に

では、富士宮はなぜ認知症にやさしい街になったのでしょうか。

市役所や医者が、認知症の勉強をするから集まれといってできたのではなく、認知症の本人が、市役所に「俺は認知症になった。でも、まだ活躍したいんだ。活躍する場を作って欲しい」と声をあげたことが発端なのです。

その方は、若年性認知症で、50歳で発症した人でした。50代は、まだ仕事をして家族を支えなければいけない年代です。この方も、住宅ローンを20年も抱えていました。ですが、仕事のミスが増えてきて、会社から認知症の診断書を求められました。そして、認知症だと診断されたら会社をクビになったのです。

だから、「俺はどうしたらいいんだ」と市役所の担当者に頼みました。「仕事ができるところを探してくれ」と。

周囲も認知症を知ろうと講座を受講

この認知症の方、佐野さんとおっしゃいますが、佐野さんは認知症と診断されはしましたが身体は元気でした。そして、計算ができない、やらなければいけない仕事を忘れてしまう、物忘れしやすいなどの認知症という病気の特性をまわりの人が理解してくれたら、まだまだ活躍できる人でした。

そこで、市役所の人は、佐野さんと一緒に認知症を雇ってくれる会社を探しました。すると、認知症の人を雇ってくれる会社がないことに気が付いたのです。

そこで、佐野さんは、認知症の人が働くことができる職場を作ろうと動き始めました。

周りの人も、これから佐野さんと仲良くやっていくためにはどんな知識を身に付けたらいいのだろうかと認知症サポーター講座を受けるようになりました。その講座が各地で展開されて、いつの間にか認知症にやさしい街になっていったのです。

住民発、当事者を中心とした地域づくりとして世界でも類をみない珍しい事例です。

通常は、国や県といった上から、こういうことをやるので集まってくださいという指令が降りてきます。でも、それではなかなかつながることができませんでした。

心が動いて、自分も知識を身に付けなきゃという気持ちになって、初めて講座に行ってみようという気持ちになるのではないかなと思います。

いつか自分が、または自分の周りの人が、認知症になるかもしれない。5人に1人が認知症になる時代ですから。その当事者意識を持ってもらえたらうれしいです。

その人を守ることになる、認知症のカミングアウト

また、富士宮市では認知症への理解を広げるなかで、今まで表に出てこなかった認知症の人がいることにも気が付きました。実は、認知症と診断されると、家族がそれを隠して社会から切り離されてしまう患者さんがたくさんいるのです。

家族が認知症になったとき、周りに認知症だとカミングアウトしておくことは、認知症の人を守るうえでとても大切です。

認知症の人はふらふらと一人で歩いていって、迷子になってしまうことがあります。知り合いに会っても相手の顔がわからなくて、道も聞くことができない場合もあります。

でも、相手の顔がわからなくても、挨拶はできるのです。相手のことが思い出せなくても、とっさにその場を取り繕うことはできてしまいます。だから相手はまさか迷子になっているとはわからないのです。

でも、その人が認知症だということがわかっていたら、歩いているときにご近所の人から声をかけることができます。おかしなところにいて迷子かなと思った時に、「あんたの家の近くに行くから一緒に行こう」と誘導することができるのです。

認知症で迷子になり、行方不明になる人が、1年に1万人以上います。認知症の人が地域に暮らしているということを知り、認知症の人への接し方を知っていると、そういう不幸を起こさない。みんなで予防してあげることができる。守ることができるのです。

私は上野原もそういう地域にしたいと考えています。

そのためには、みなさんの協力をいただきたいと思います。