気難しい一人暮らしの人を ご近所でどう支えるか

<文:星野美穂>

Oさんは、数年前より認知症を発症し、生活全般においてサポートを必要としている男性です。平日は医療や介護のサービスが入っていますが、それが入らない日曜日は、近所に住む従妹のAさんが、Oさんの生活の手助けをしてくれていました。

そのAさんが骨折、入院してしまいました。

この日の集まりは、入院しているAさんに変わり、近所の人の力でOさんを支えることができないだろうかという相談でした。

気難しく、気も短いOさんを果たして支えることができるのかと戸惑っていたご近所の方々も、「必要なのは日々の声かけ。声をかけて具合が悪そうだったりしたら、僕やケアマネジャーに連絡してくれるだけでいい」という上條先生の言葉に、少しずつ気持ちをほどいていきました。
 

認知症の方をお世話していた人が倒れた!

2018年12月1日。A地区で、一人暮らしの男性をこれからご近所のみなさんでどう見守っていくかの話合いが行われました。主催してくれたのは、Oさんのケアマネジャーです。集まったのはケアマネジャー、上條医師、訪問介護のサービス責任者、社会福祉協議会の担当者、民生委員、区長、いきいきサロン会長、ほかご近所の方5名です。

<Oさんの現在の状況>

60代後半/男性/一人暮らし

疾患名:認知症・気管支喘息・糖尿病

地元に生まれ、地元に育ち、現在も地元で生活している方です。数年前より認知症を発症し、生活全般においてサポートを必要とされています。

現在、ご本人の状態は落ち着いています。ですが人の顔や名前が出てこなくなっていたり、薬を飲んだかどうかがわからなくなるなど、短期記憶や判断力に問題が出てきています。現在は、自分ではお金の管理もできない状況です。月曜日から土曜日までは、訪問看護や訪問介護を利用しています。

<相談内容>

医療や介護のサービスが入らない日曜日は、近所に住む従妹のAさんが、Oさん宅を訪ねて薬や食事など生活の手助けをしてくれていました。Aさんは日曜日だけでなく、平日も何回も様子を見に来てくれていました。

そのAさんが先日骨折してしまい入院、退院のめども立っていない状態です。Oさんは現在、なんとか一人で生活はしていますが、Aさんが担っていた部分を新しい介護サービスで埋めるのではなく、ご近所の力で支えることはできないだろうか、ということがこの日の議題でした。

地域での見守りを打診

上條先生は、「Oさんには医療と介護のサービスが入っています。でも完全な支援体制は作ることができず、看護師やヘルパーが1日に30分~1時間ほどしか入ることができません。それ以外Oさんはほぼ一人でいるという状況です。Aさんが来ることができなくなり、不安になって、ご飯を炊かなきゃ、お湯沸かさなきゃといった行動が増えるかもしれない。そうすると火事や事故も心配になります。Oさんを、ご近所のみなさんで見守ることはできないでしょうか」と、参加者であるOさんの近隣の人々に支援を打診しました。

ご近所は「責任持てない」と消極的

参加者からは、「見守ってあげようという気持ちはあるけど、一人暮らしだし何かあっても責任持てない」、「Oさんは機嫌が良いときはいいが、ちょっとしたことですぐにカッとなるから、怖い」、「今、生活保護を受けていると聞いている。みんな若いとき一生懸命働いて、年金をかけたりお金を貯めたりしているのに、Oさんはあまり働くのが好きじゃなかった。自業自得と感じている」などの意見が出されました。

知らなかったOさんの思い

すると、Oさんのお金を管理している社会福祉協議会のスタッフが、「生活保護費を入れている通帳を確認してもらおうとOさんに差し出すと、『俺は生活保護なのに貯金なんてしちゃいけないんだ』と言っていたことがありました」と話し出しました。

「皆さんの恩恵を受けて生活しているのだということは、Oさんはどこかで分かっているのだと思います。この間は入れ歯を作りに歯医者に行きましたが、『歯医者に行っていいのかな』とも話していました。キツイことも言いますが、みんながいてくれるからここで生活できるということを、最近はよく口にします」。「そんな風に思っていたなんて、初めて聞いた」。

自分勝手に、いい加減に生きてきた。そんな風にOさんを捉えていた地域の人たちは驚いたようです。

接し方のコツを学ぼう

すぐにカッとなるという性格に関しては、「Oさんは怒ったときでも、他の話題を振るとすぐそっちに気持ちが移って気分が変わる。AさんはOさんへの接し方がすごく上手で、まずい話題に触れちゃったなというときは、さっと話題を変えていた。われわれ医療スタッフもそのやり方をみて学んだんですよ。そのコツをみんながつかむとうまく対応できるかも」と、上條先生が提案しました。

お願いしたいのは毎日の見守り

それでも、「医療に関わることだから、どこまでできるかわからない」という参加者に対して、上條先生は「最終的な目標は、関わってくださる誰かがOさんの家に入って、薬を飲んでもらうということができたらいいけど、それはずっと先の話。今、必要なのは日々の声かけ。家の前を通りかかったら、『元気か?』『薬飲んだか?』『ご飯食べたか?』と声をかける。それでもし、ちょっと具合が悪そうなら、僕のところやケアマネジャーに連絡してもらう。それくらいでいいんです」と話しました。

「それくらいなら、日常やっていることだわ」

「Oさんの家の前はお店だから、買い物に行ったときに様子を見てみることはできるね」

上條先生の言葉に、参加者も少しほっとしたようです。

どんな人でも暮らしやすい地域にするために

「性格的に難しいところのあるOさんについては、みなさん色んな思いがあると思う。自分にだって、そういう感情はある。でもその難しいOさんを支援できる地域になったら、ここはどんな人でも暮らしやすい地域になると、僕は思っている」。

この上條先生の言葉に、どんな負担がふりかかるのかと身構えていた人たちの気持ちが少しほどけたようでした。

このあと、具合が悪い時や緊急時の連絡先を参加者のみなさんに伝え、Oさんのご近所の人々による見守りがスタートしました。

認知症対策は自分事

今回の議題はOさんについてでしたが、認知症、物忘れで生活しにくくなっている人はたくさんいます。そうしたことに対して、家族として、また地域として対応力をつけておくことが大切です。いずれ自分が認知症になったときに家族や地域に上手に対応してもらえば、ずっと家で暮らすことができます。

他人事でなく『自分事』として、より多くの人が知識を付けることが重要なのです。

認知症の方への対応などについては、「認知症サポーター養成講座」などで学ぶことができます。上條先生は「そうした場もあるので、興味を持ったら学んで欲しい」と呼びかけました。