8月25日に犬目公民館で行われた、出前講座「災害で、防災で地域がひとつになる」。
上條医師のお話しのあと、上條医師と一緒に地域の医療介護に取り組むスタッフからのお話しがありました。ケアマネジャー、薬局薬剤師、福祉用具の会社のスタッフ、そして管理栄養士やケアワーカーが、それぞれの専門の分野から災害時の工夫やアドバイスをお伝えしました。
災害時に備えてケアマネジャーができること
後藤義忠(ケアマネジャー:やすらぎ荘居宅介護支援事業所)
災害時の支援は誰がどうやって行うの?
ケアマネジャーは介護保険サービスや市の事業などの公的サービスを中心にケアプランを作って、利用者さんの生活を支援するのが仕事です。
たとえば、足が悪くて買い物ができない場合などには訪問ヘルパーを手配したり、病院に行く移動手段がない利用者さんには介護タクシーなど、必要な介護サービスを手配します。自宅のお風呂に入ることができない方には、デイサービスや訪問入浴など利用者さんのご意向、住宅環境や介護状況を総合的に考慮し必要なサービスをご提案させていただきます。
しかし、地域で生活していると、これら公的サービスではカバーできない問題がたくさんあります。孤立化や認知症の問題、普段の移動手段がないなどです。
そんななかで大規模災害が起きたらどうなるでしょうか?
市役所など行政機能が低下し、ライフラインが停止、介護サービスも止まってしまったら?
安否確認は誰がするのでしょう?
誰が助けに行くのでしょうか?
ケアマネとして地域とサービスをつなげたい
災害時の支援を考えるのであれば、普段から生活課題を解決する仕組みを地域が持っていることが重要だと考えます。
生活支援は平時でも大変なことなのに、大規模災害が起きたらもっと大変です。
電球を取り換えたり、毎朝声をかけたり、庭の草取りをしたり、今の介護保険制度では、介護保険サービスでの利用できる場面が詳細に規定されており、ヘルパーが行えないことも多くあります。
介護保険を使ってできない部分を、地域の皆さんと一緒に支える方法を考える、そういう提案をしていきたいと思っています。
個人の悩みは地域の悩み。その解決は、地域を変え、個人を助けることにつながります。
ケアマネジャーができること。人、地域、社会資源、サービスをつなぐこと。
専門職が地域で話すことで、それを結びつけることができると考えています。
どんどん、地域に顔を出して結びつきを作っていきたいと思っています。
薬にまつわる、災害時への備え
曽根有理(ありす薬局薬剤師)
薬は1週間分の備蓄を持つ
災害にそなえて、薬局薬剤師の立場から3つの話をしたいと思います。
1つ目、薬の備蓄、常備薬を忘れずにお願いします。
東日本大震災のときには、物流が麻痺して災害時にはあらゆるものが不足しました。
薬もその例外ではありませんでした。被災地から離れた上野原でも、普段は30日分、60日分渡していたお薬が、投与日数が制限されて少ししかお渡しすることができませんでした。被災地に薬を回さなければいけない事態が起きていたためです。
ですから、災害に備えて、少なくとも1週間分は備蓄をしておいて欲しいと思います。
お薬手帳を持って避難を
2つ目はお薬手帳を持ちましょうということです。
災害時、避難所ではすぐにカルテが取り寄せられるとは限りません。
そのときにお薬手帳があれば、初めてその患者さんを診察した医師でもどんな薬を飲んでいたかを知ることができます。手元にない薬もすぐ処方してもらうこともできます。
東日本大震災の時も、お薬手帳を持って避難できていたら、混乱も少なかったと思います。
もちろん、普段から病院や薬局へ行くときも提示してくださることで、同じような作用の薬が出ていないか、患者さんに合っていない薬が出ていないかなどのチェックをすることができます。
頼りになるかかりつけ薬局
3つ目、かかりつけ薬局を持ちましょう。
5年前、2014年の豪雪のときには何日も外出や買い物行けなくなりました。
電車や車が何もかも止まって、病院へも行けない人が多くいました。
薬がなくなってしまった患者さんが、病院へ電話したら、病院からかかりつけ薬局はどこですかと聞かれたそうです。そして、家の近くのかかりつけ薬局に処方せんをFAXするからそこに薬を取りに行ってくださいと言われました。
その方は、かかりつけ薬局で無事に薬をもらうことができました。
たとえ、病院で診療できなくても、災害時にはそうした措置を取ることができます。
普段からかかりつけ薬局を持ち、利用していれば、いつもどんな薬を使っているかを把握しておいてもらえますし、薬の飲み合わせや重複投与も確認してもらえます。
ぜひ、かかりつけ薬局を持ちましょう。
災害時にも実は使える介護用品
木村和樹(福祉用具事業所:あい和ケアサービス)
ポータブルトイレは捨てないで
介護用品は介護するときにだけ使えると思っていませんか?
実は、今使っている介護用品の中でも災害時に役立つものもあるのです。
また、あまり見慣れない介護用品の中でも、災害時に活躍してくれるものもあるのです。
今日は、そんな介護用品を紹介させていただきたいと思います。
ポータブルトイレやシャワーベンチを使ったことがあるご家庭は多いと思います。
これらを購入する場合、上野原市では先に全額を支払って、後から補助金額分が戻ってくるようになっています。実質4000円くらいで買えるため、使い終わると邪魔だからといって捨てる人も多いと思います。
でも、これは取っておくと災害時に使えるのです。
尿取りパッドは簡易トイレに利用できる
ただ、ポータブルトイレだけ置いてあっても、排泄物が処理できません。
そんなときは、ポリ袋のなかに吸収パッドが入っている処理袋が売っていますので、それを使ってください。
処理袋がなければ、ポリ袋に介護用の尿取りパッドを入れてもらえば使えます。尿取りパッドは水分を吸収するので、災害時に簡易トイレ代わりに使えるのです。
東日本大震災の時、支援物資としてオムツとかパッドなどが大量に運び込まれました。でもかさばるし、処理しきれず、積まれたままになっていたものも多かったのです。
本来の使い方でなくても、こうして使うことで消費できます。モノを回していくことが大切です。
シャワーベンチは、災害時には椅子として使えます。安定感があるので、野外に置いても倒れにくいです。
災害に役に立つ介護用品あれこれ
ほかに役立つのは、蓄光テープ。暗闇で光るテープです。
避難所で夜、動くときに目印として使えます。
これは普段から階段の段差、敷居とかに付けておくと目印になります。
福祉用具として売っているコンパクト担架は、とにかくコンパクトです。足元にパッドが付いていて、中に足を入れて落ちないようになっています。
素材はビニールです。
布は血液が付くと不衛生になります。ビニールなら拭き取れるので衛生的です。
簡易トイレは、いろいろな素材のものがあります。これは段ボール製のものもあります。
もちろん大人が座っても大丈夫です。耐荷重120キロ。3000円くらいで購入できます。
自治会で備えておいていただけると、災害時役立つと思います。
災害時、栄養士ができること
深澤幸子(日本栄養士会災害支援チームリーダー)
食べられない人は我慢してしまう
日本栄養士会では、東日本大震災のあとから、大規模災害のときは全て管理栄養士・栄養士が被災地に出動してきました。
今日は、災害時に栄養士はこんなことがお手伝いできます、ということをお話ししたいと思います。
避難所には、さまざまな援助物資が届けられます。普通にご飯を食べられる方なら、あれこれ食べることができますが、歯が悪かったり、飲み込みが悪い人では食べられないものも多いのです。でも、そんな人たちは、「こんなときに贅沢いったら悪い」といって我慢してしまい、何も言えない状況にあることが多いのです。
これまで、被災地に行った経験の中で、栄養士の役割は食べることに困っている、食べられない人たちに手を差し伸べることではないかと思っています。
避難所に作った特殊栄養食品ステーション
2015年に茨城県常総市で起きた水害のときには、避難所の体育館に災害支援物資がトラックに何台も運び込まれていました。それを100人くらいのボランティアが、バケツリレーで体育館に運び込むのです。
当然、何がどこにあるのかわからなくなります。
そこで、体育館の一角に、「特殊栄養食品ステーション」を作り、濃厚流動食や、レトルトのやわらかいおかゆ、赤ちゃんのミルクなどを仕分けして整理しました。
「特殊(栄養)食品ステーション」をつくったおかげで、その方に合った食品がスムーズに提供できるようになりました。
その後災害があると、厚労省から栄養士会に、「特殊栄養食品ステーション」を作るようにという連絡が入るようになりました。
食事の相談役として避難所を巡回
避難所では、栄養士は毎日巡回して、被災者の方がきちんと食べられているかを確認します。硬いものが食べられない人には、カロリーもきちんととれるようなハイカロリーのおかゆなどを持って行きます。
野菜が取れなくて便秘で困っているという方には、野菜ジュースを飲んでもらいました。
また、被災者のなかには、腎臓が悪かったり、糖尿病を患っているという人もいます。そういう方は、避難所で出される通常の食事では体調を崩してしまうため、疾患に合わせた食品を探して出すようにします。
アレルギーのお子さんに、アレルギー学会と連携してアレルギー用のミルクや離乳食を手配したこともありました。
このように、支援物資の中から特殊な食品を仕分けしたり、食事の相談に乗ったりするのが、私たち管理栄養士の災害時の役割なのかなと思っています。
ケースワーカーが伝える防災豆知識
酒井雅子(みのりの里介護老人保健施設旭ヶ丘ケアワーカー)
いろいろ重宝するビニール袋
今日は、今手元にあるものでできる、防災豆知識についてお話しします。
たとえば、転んで骨を折ってしまったとき、手提げビニールが三角巾代わりになります。
また、避難所でのトイレですが、動けなければそこでするしかありません。でも、人の前でトイレなんてできませんよね。
そんなとき、黒いビニールの底を破って頭からかぶれば、目隠し代わりに使えます。
ビニールは防寒着にもなります。
ビニールを着て、新聞紙を折ってお腹と背中に入れれば結構あたたかい防寒着になります。
また、タオルをビニールに入れ、お湯を少しだけ入れるとホットタオルができます。少ない量のお湯でホットタオルが作れるので、災害時は重宝します。
あるもので何ができるかを考える
風呂に入れないときも、ダンボールにビニール袋を入れて、お湯を入れて足浴します。
これで体が温まります。
オムツをしている高齢者には、ビニールとタオルで応急処置ができます。
ペットボトルは、水を入れて凍らせておけば、保冷材の代わりになります。
氷が溶ければ、飲み水にもなります。
防災グッズを常に持ち歩く人は少なく、外出先で災害に会う可能性もあります。
どれだけそろえるのかでなく、目の前のものを使って何ができるかを日常の中で考えてもらいたいと思います。