人生会議(ACP)住民啓発

1,広報誌令和5年12月広報誌

2,令和6年2月市民公開講座

はじめに

上條内科クリニックでは「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」普及推進は、最も重要な活動のひとつとして取り組んでいます。

その中でも重点的に取り組んでいるのが、

・住民啓発

・医療・介護の専門職のスキルアップです。

今回は住民啓発について報告いたします

住民啓発では、上條院長が市内各地域へ出向き、地域住民の皆様にACPの必要性を知って頂けるよう活動を行っています。その一環として、令和6年2月18日上野原市役所もみじホールでの講演会「人生会議をしてみませんか?」のトークセッションに登壇しました。

講演会を振り返りながら、人生会議や自分らしく生きるという事についてお伝えします。

1令和5年12月上野原市広報誌、市長と上條武雄院長の対談

人生会議、またはアドバンスドケアプランニング(ACP)とは、将来の変化に備え、その時の医療や生活について、 本人を中心に、ご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組みのことです。

令和5年12月には村上市長と上條武雄院長とでACPに関する対談が行われました。詳しくは、こちらをご覧ください。→

https://www.city.uenohara.yamanashi.jp/uploaded/attachment/6383.pdf

2市民公開講座「なんとめでたいご臨終」小笠原文雄先生のお話

今回の講演会では、「なんとめでたいご臨終」の著者小笠原文雄先生にお話を伺いました。「命ある限り好きな事やりましょう」「笑って生きて笑って死ぬ」「笑顔で暮らしてピンピンコロリと亡くなる」と患者さんご本人に真摯に向き合ってこられたお話をしてくださいました

2-1地域と共に歩む上條内科クリニックだからこそ伝えたいこと

講演会に続くトークセッションでは、当院の上條武雄院長が登壇しました。在宅での看取りと上野原の現状について、「まだ、知らないだけ 上野原の在宅医療」というタイトルでお話ししました。

2-2在宅看取りとは

在宅看取りという言葉を聞いた事はありますか。患者様が人生の最期を住み慣れた自宅で過ごすために、医療や看護サービスや看護ケアを受ける事を指します。

病院や介護施設に入院、入所せず住み慣れた自宅で過ごしたいという方にとって最適な選択肢です。また、自宅環境によって心理的な安心感も得られるため、入院している時より病状が安定する方もいます。

・山梨県と上野原市の在宅看取り率

上野原と山梨県の、全死亡に対する在宅看取りの比率を以下に示します。自宅、老人ホーム、介護老人保健施設といった、病院ではない生活の場で最期を過ごした方の割合です。近年、上野原での在宅看取り率は増加しており、山梨県全体での在宅看取り率を上回っています。全国と比較しても実績が多いとわかります。

上野原は在宅医療を受ける支援体制が整っており、当事者が望めば在宅での看取りが可能な地域と言えます。

2-3病院で受ける医療と在宅医療はどう違うの?

病院では緊急の治療や手術、検査などが可能な病院環境や設備がありますし、専門的な医療スタッフが常駐しています。治癒を目指す場合は、病院医療が最適です。

一方、在宅医療は、患者様が自宅で医療ケアを受けます。医師や訪問看護師、介護スタッフが定期的に自宅を訪れ、患者様の健康状態や薬の管理、傷の処置、リハビリテーションなどの医療サービスを提供します。在宅医療の利点は、自宅での安定した生活環境を保ちながら、家族や身近な人達と一緒に過ごせる事です。特に病院医療でも救命や治療が難しい場合、最後の時を在宅で過ごしたいという方は多くいます。在宅医療では急性期病院での診療と異なり、疾患を最良の状態に管理することよりも、病気と共存し患者様の想いに寄り添い生活することを中心とします。

2-4 ご本人が望む最期を迎えるためには

残された時間を望む形で過ごしたい、静かに最期を迎えたい、誰しもが願う事だと思います。しかし、それには事前の準備が必要です。在宅での看取りの件数自体は平成22年以降増加していますが、それ以前からある「ある特定の自宅死亡件数」は昔も今も変わりません。ある特定の自宅死亡とは、孤独死、慢性の病気で死亡が予見されていたにもかかわらず、準備がないまま死に至り、結果として警察の介入が必要になった事例です。

例えば、老衰で徐々に衰えていた方が、ある日自宅で息を引き取りました。

事前にかかりつけ医に相談が出来ていれば、かかりつけ医が往診し、死亡診断を行うのみで完結しますが、慌てて救急車を呼んでしまったときには、救急隊は救命が役割ですから、心肺蘇生、いわゆる心臓マッサージ、人工呼吸をしながら病院へ搬送します。

心拍が再開しない場合、そのまま病院で看取ることになります。ご家族にもご本人にも大変な負担となります。

一方、すでに心臓・呼吸が止まった時間が経過して冷たくなっている場合、救急隊は病院へ搬送せず、警察へ連絡を入れます。以降の対応は警察対応です。ご家族が取り調べを受ける場合もあります。

これまで、ゆっくり、自然に、穏やかに衰えが進んでいた高齢者の最後として相応しいと言えるでしょうか。このような最期を望まないという方が多いのではないでしょうか。

望む形で最期を迎える為にも、死が目前となった時にどうするのか「人生会議(事前意思表示)」でよく話し合いをしておくことが重要であり必要です。

山梨県では「蘇生に関する患者の意思表示書」というものがあります。

患者さんご本人やご家族が慌てて救急車を呼んでしまっても、この書式を示せば、主治医に連絡を入れてくれてバトンを渡してくれるというものです。

この作成をするには、当然かかりつけ医との事前の相談、まさに人生会議を行っておく必要があります。

2-5 ふり返ると普段の会話が人生会議だった

あらかじめ話し合っておいて良かった事例をご紹介します。Aさんは悪性疾患の末期で自宅療養をしている女性です。ご主人が介護をしています。5月16日に当院に相談をいただき、翌日には初回の往診にうかがいました。すでに苦しいとのことで在宅酸素と医療麻薬を開始しました。胸に水が溜まる胸水、お腹に溜まる腹水を抜き、不要な水分をおしっことして捨てる利尿薬を開始したのが奏功し、5月29日には苦しさは劇的に軽快しました。末期癌だけでなく、持病の心不全などまだ治療の余地のある病態が改善したのでしょう。数か月、穏やかに療養する日々が続きました。9月4日、Aさんは41℃の熱を出しました。

数日前にご主人が発熱しかかりつけ医を受診して風邪薬をもらっていました。まさかと思い、コロナの検査をしたところ、二人とも陽性でした。

Aさんは酸素が下がっていたため、いわゆる中等症で病院へ入院する適応でもありました。しかし、このコロナをきっかけに間もなく最期が来ると直感し、緊急で人生会議を提案しました。関わる者皆を集め、テレビ電話で話し合いました。ここで入院したら、もう家には帰れない、病院で看取ることになると、参加者全員が感じていました。

Aさんは家に居たい、ご主人は家で看てあげたい。

幸い、主介護者のご主人は先にコロナになって、すでに回復期にありました。

みんなで覚悟を決め、自宅で過ごし、その翌日9月5日の深夜1時にAさんはご主人の見守る中息を引き取りました。

葬儀社は、すでに事前に相談出来ており、ご本人の意向に沿った段取りで全てが進みました。

「妻とは形式的に人生会議をしたわけではないが、ふり返ると普段の会話が人生会議だったと思う。」とご主人は振り返りました。

皆様に今一番伝えたいことは、「これからのこと、決めなくても良いから、たくさん話をしよう」と言うことです。

これからのことを一つ一つ細かく決めていなくても、基本にある思い、考え方が分かるような会話があれば、決めていなかったことに直面した時にも、基本にある思いをもとにこれからの方針を組み立てることが出来るのです。考え方の土台が出来ているということです。

3 今後の地域医療の発展のために、多職種連携の強化

そして、最後に皆様にお願いしたいことがあります。住民の皆様に力を貸して下さいと言うことです。医療介護の専門職だけでは支えきれない事があります。最後まで地域社会の一員でありたいと願っている方のためにも、皆さんのお力添えが必要なのです。

現在、上條内科クリニックでは、いきいきサロンや老人クラブへ出向き、サロン内で医療制度の話や健康体操なども行っています。また、上野原市社会福祉協議会と連携し、市内の老人施設見学ツアーの開催も企画しています。

医療制度の話では、後期高齢者医療保険証の使い方や、デイサービスへの申し込み方など、基礎的な部分の質問も飛び、皆さんの関心が伝わってきます。

また、ACPの推進に向けて、出前講座を行っています。ここでは、事例を通して、あなたならこの事例の方にどう向きあいますか?とグループ内で話し合って頂き、個々の意見を聞きながらそれぞれが出来る事を考えるきっかけ作りの機会を作っています。

上野原の地域活動に貴方も参加してみませんか。