高齢者の皮膚のかゆみ

<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄 / 文:星野美穂>

皮膚のかゆみについて

秋から冬にかけて、皮膚の乾燥を感じる季節です。

特に高齢者は、からだの新陳代謝が落ち、皮脂腺から分泌される皮脂(皮膚の脂)の量が減少するため、より乾燥しやすくなります。そして皮膚が乾燥すると、肌着の擦れやクリームなど化学物資からの刺激に敏感になり、かゆみを生じやすくなります。

一種の生理的な現象といえますが、こうした状態について「老人性乾皮症(ろうじんせいかんぴしょう)」または「老人性皮膚そう痒症(ろうじんせいひふそうようしょう)」という病名がついています。

老人性乾皮症の時点なら、生活習慣の改善や適切なスキンケアと治療によりうまくコントロールできる場合が多いものです。ところが掻きむしって掻き壊してしまったり、湿疹化させてしまったりすると、薬による治療を要する皮膚疾患(皮脂欠乏性皮膚炎(ひしけつぼうせいひふえん)や皮脂欠乏性湿疹(ひしけつぼうせいしっしん))となります。「かゆみなんてよくあること」と軽くみていると、かゆいから掻く、掻くから悪化する、さらに掻き過ぎてしまう…という悪循環に陥ります。

高齢者の肌が乾燥しやすい理由

皮膚は、外界からの有害物質の侵入を防ぎ、体内の水分の喪失を防ぐ重要なバリアとしての役割を果たしています。そのバリア機能を担うのが、皮膚の一番外側にある「角層(かくそう)」です。

この角層に含まれる水分量が減少すると、皮膚がかさついた状態になります。

角層の水分量を決定するのは、角層の中の脂質の量と、その他の保湿因子です。

保湿因子とは、

  1. 皮脂腺から分泌される皮脂
  2. セラミドを中心とする角質細胞間脂質
  3. アミノ酸や尿素など角質内天然保湿因子

です。

保湿のために重要なのは、特に2と3です。

これらが豊富にあると肌はみずみずしく、刺激や乾燥にも強くなります。しかし、これらの保湿因子は加齢とともに減少してくることが知られています。そのため、高齢者の皮膚は乾燥して敏感になり、肌荒れしやすい状態になってしまうのです。

我慢せずに医師に相談を

肌が乾燥してかゆくなる⇒かゆいから掻く⇒皮膚が傷つきかゆみが増す⇒掻きむしってしまう…こうなってしまったら、保湿剤だけでは改善しません。ステロイドが入った塗り薬を使用してかゆみの悪循環を断ち、その後保湿剤を上手に組み合わせていくことが大切です。

かゆみそのものに対しては、かゆみを抑える作用を持つ抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬も有効です。特に、抗ヒスタミン薬は眠くなるという副作用を利用して、かゆみで眠れないと訴える人に使う場合もあります。

保湿剤を使うタイミング

皮膚の保湿には保湿剤を使います。
保湿剤には、白色ワセリン、尿素軟膏、ヘパリン類似物質軟膏、セラミド配合軟膏など、その機能や特徴によりさまざまな種類があります。薬局などで購入できます。

保湿剤は、使用するタイミングが重要です。

乾いた肌に塗っても、あまり効果は得られません。 入浴直後の、皮膚がまだ水分を十分に含んでいる間に塗るのが最適です。できるだけ多くの水分を閉じ込めることができるからです。すりこむようにこするのではなく、肌にのせるように塗り広げます。

電気毛布がかゆみ悪化の原因に

日頃の生活習慣が、皮膚のかゆみに関わることもあります。

入浴は、血行を促進し皮膚を清潔に保つためにも大切なものです。ただし、熱いお湯は皮脂を必要以上に洗い流してしまいます。皮膚のためには、ぬるめのお湯にゆったりと浸かるのが良いでしょう。

電気毛布も、乾燥を増長させかゆみを悪化させる原因となります。寝る直前まで布団を温めておき、スイッチを切ってから寝るなど使い方を工夫しましょう。

また、加湿にも気を配りたいものです。加湿器を使うほか、濡れタオルを1枚干しておくだけで、部屋の湿度は変わります。

皮膚のかゆみは辛いものです。
保湿の方法や生活を工夫して、皮膚の乾燥する時期を乗り切りましょう。

 

「 高齢者の皮膚のかゆみ 」に関する信頼できる情報は?

公益在団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット 

老人性乾皮症 

https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/hifushikkan/rojinseikampisho.html

日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 

皮膚そう痒症とはどんな病気ですか?

https://www.dermatol.or.jp/qa/qa37/q05.html

http://www.jsbi-burn.org/ippan/chishiki/preventive.html