医療の集いin都留高校   講演記録第1回

<2020年9月26日山梨県立都留高等学校医療のつどいより 文:星野美穂>

2020年9月26日、山梨県立都留高等学校で「医療の集い」が開催されました。
医療の集いは、医療系学部・学科に進学を希望する学生に対して、地域医療を担っている医師、看護師、薬剤師がその活動について話をし、どのような医療者を目指すかについて考える機会とするために開かれました。
この日は、上條武雄医師とともに地域医療を支える病院看護師、訪問看護師、薬剤師が登壇。
これからの医療を担う学生たちに、地域医療の現状を知ってもらう、良い機会となりました。
これから4回に渡り、この講演を紹介します。

知って下さい、そして、力を貸して下さい

上條武雄(上條内科クリニック)

 

私は、昭和41年生まれ、都留高校を昭和60年に卒業しました。

今、上野原で内科の診療所を開業していいます。診療所というと、通院して診察室で診察を受けるところというイメージがあると思いますが、当院は在宅療養支援診療所です。
私の仕事場は患者さんの自宅です。生活の中で医療を提供するという仕事をしています。
今日はそういう医師の立場から皆さんにお願いがあります。

「知ってください、そして、力を貸してください」。

あなたが大切にしているものを守る医療

医療というと、高度な医療を提供する専門病院や大学病院をイメージする人も多いと思います。今集まっている生徒さんは、これからそういうところで学んでいくことでしょう。

ただし、今日お話しするのは、高度専門病院や大学病院で提供される「治すための医療」とは別の医療です。

あなたが大切にしているものを守る医療が、この上野原にはあります。

たとえば、あなたの大切な家族が、難病やがんの末期、あるいは老いや病気で寝たきりになったとします。そして病院や施設ではなく家で過ごしたいと願った時、この地域ではどんな医療介護を受けられるのか、そんな話をしたいと思っています。

3人に2人の病気は治らない

本題に入る前に、確認です。
現在、国民の2人に1人はがんになっています。
そして、国民の3人に1人はがんで亡くなっています。
ということは、がんが完全に治るのは3人に1人。つまり、3人に2人は治らないという現実があります。

がんにならなくても人は必ず死にます。みんな何らかのかたちで亡くなります。 それを知っておいて欲しいと思います。

病気が治らないとしたら、病気や老いと上手に付き合いながら最期まで、自分らしく生きたいものです。この地域には、大月市立中央病院や上野原市立病院など、病気をちゃんと治してくれる医療がある一方で、その人らしさを最後まで支える医療もあります。それが地域包括ケアと言われているものであり、それを担っているのが在宅医療・在宅介護です。

今日は、そこで働いている仲間に来てもらいました。仲間ですが、それぞれ所属している組織は違います。

私は診療所の医師ですが、病院の看護師や、訪問看護ステーションの訪問看護師、調剤薬局の薬剤師もいます。それぞれ所属は異なりますが、患者さんやご家族の大切にしているもの、願いを叶えるためにチームを作って連携し、24時間365日の体制で支援しています。

寝たきりでも自宅で暮らせる

事例を紹介します。

これは、ある神経系難病の男性患者さんです。
神経の病気は、進行するに従い筋肉の力が落ちて手足が動かせなくなったり、自分の力で痰を出すことができなくなることが多いです。

この方も、ご自身の力でご飯が飲みこめなくなり、胃ろうで栄養を入れています。痰も出せなくなったので、気管切開をして痰の吸引もしています。
また、酸素を取り込む力も弱くなったので、管で酸素を送り込んでいます。

最近は、胃ろうから栄養を入れても、胃腸の機能が悪くなって吸収ができず、下痢をしたり吐いたりすることが増えて来たので、点滴で栄養を入れるようになりました。皮膚の下にポートと呼ばれる点滴の入り口を埋め込んでいます。私が点滴の針を刺した後、奥さんが栄養の点滴をつなぎます。点滴は毎日交換していますが、看護師でなく奥さんがやっています。

このほか、切開したところに入れた管からの痰の吸い取りや、尿を出すための管の管理も家族がやります。床ずれ防止のために、たくさんのクッションを置いてからだにかかる圧力を分散しています。ベッドは頭や足があがるほか、ベッド全体も傾くし、エアマットもついている高機能ベッドです。

この人はそうしたものを家に持ち込んで、介護、医療を受けています。
こんなにもたくさんの医療を必要としていますが、この人は家に帰りたかったのです。奥さんも家に帰したかった。なぜでしょうか。

猫の重みで安心して眠れる

このお宅は会社を経営しています。実務は、奥様と息子さんが頑張っていますが、ご本人は今でも会社の代表を務めています。

この写真は、処置が終わって、疲れて眠っている姿です。
そばにはワンちゃんがいます。足元には猫がいます。
犬に見守ってもらって、安心して寝ているという姿です。
この人は猫の重みで安心して眠れるとも話しています。

医療・介護・地域が連携したバーチャルホスピタル

生活がある、仕事がある、大好きな家族がいるから家に帰りたい。
それを支えているのが、我々、医療介護の専門職です。
ただ、それぞれ違う組織に属しているので、物理的な壁ができてしまうという問題があります。

それを解決する方策の1つが、医療介護連携SNSです。

SNSのなかに、患者一人に対して1つ、グループを作っています。患者さんに関わる医師、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなどの医療者、介護者はもちろん家族もそのグループに参加します。このグループに家族が発信すれば、グループの参加者全員にその情報が伝わります。医師が薬を変更すれば、何の薬をどうして変更したのかが、全員にわかります。

もちろん顔を合わせての話し合いもしますが、そうした医療・介護専用SNSを使いながら質の高いチームケアを実践しています。
いわば、医療・介護・地域が連携したバーチャルホスピタルができているのです。
この上野原の取り組みは、全国に先駆けて円滑に運用が行われています。
今日は、そんな医療の状況を知っていただきたいと思います。

今日これから話していただくのは、連携チームの仲間3名です。どんな職種が地域の中でどんな活動をしているのか、知ってもらえたらうれしいです。

そして、将来、あなた方も、このチームに入って地域を支える一助となってくれたらありがたいと思っています。